営業チームが翌日の行動を変えるためのKPIと、経営層が一目で着地を判断するためのKPIは、同じ数字でも見せ方がまるで違います。本稿ではSnowsightのダッシュボードを題材に、タイル・フィルター・共有権限・更新設計の勘所を整理し、営業向けと経営層向けの作り分けを具体化します。あわせて、2026年に進むSnowsightダッシュボードの廃止と、Streamlit in Snowflakeへの現実的な移行までを、AWS×Snowflakeの実装目線で解説します。

01「作り方」の前に決めること

Snowsightのダッシュボードは、SQLの結果をタイルとして並べるだけで、別途BIツールを契約せずにKPIを共有できる手軽さが魅力です。ただしツールはあくまで手段です。営業チームと経営層では「見たいKPI」も「更新頻度」も「触り方」も違うため、まず読者を決め、次にデータの粒度、最後に見せ方、という順で設計するとぶれません。SnowflakeはAWS上で動くため、S3のデータレイクに着地したファイルを外部ステージやIceberg Tablesで取り込み、仮想ウェアハウスで集計し、その結果をSnowsight(あるいはStreamlit)で見せる——という一本の流れの最終出口がダッシュボードだと捉えると、設計の議論がしやすくなります。

重要な前提:Snowsightのダッシュボード機能は廃止方向にあります。公式には、新規ダッシュボードの作成は2026年4月20日に全アカウントで無効化され、既存ダッシュボードの削除は2026年6月22日から段階的に始まります。ですので本稿は「今から新規に量産する手順書」ではなく、ツールが変わっても残るKPI設計の型と、移行先であるStreamlit in Snowflakeまでを扱います。既存ダッシュボードを運用中の方は、削除前の棚卸しと移行判断の材料としてお読みください。

02タイルとチャート:ワークシートから1枚に積む

ダッシュボードはチャートを並べたタイルの集合です。基本操作はワークシートで「New Tile from Worksheet」からクエリを書いてタイル化するか、既存ワークシートを「Move to」で新規ダッシュボードへ移す形です。チャート種別はbar(棒)、line(折れ線)、scatterplot(散布図)、heat grid(ヒートグリッド)、scorecard(スコアカード)が用意され、1つのクエリにつき1つのチャートを持ちます。scorecardは単一の数値を大きく見せるため、KPIの現在値(達成率・売上・件数など)の表示に向きます。ダッシュボード上部のcontext selectorで、クエリを実行するrole(ロール)とwarehouse(ウェアハウス)を指定する点も押さえておきます。

現場のコツ:scorecardタイルを画面上段に、その内訳のbar/lineを下段に置くと、経営層は上段の数字だけを、営業は下段で内訳と推移を追う、という視線設計が1枚の中で両立します。

03フィルターで「1枚を全員用」にする

ダッシュボードには、日付範囲などの標準的なシステムフィルターに加え、管理者がSQLで定義するカスタムフィルターを載せられます。カスタムフィルターはクエリを直接書き換えずに結果を切り替えられるのが利点で、選択肢をSQLで生成する場合は更新頻度を毎時・毎日・なし(never)から選べ、その更新は作成者または最終更新者の権限で実行されます。期間・地域・担当といった共通フィルターを1つ用意しておけば、同じ1枚のダッシュボードを部署や担当ごとに絞って使い回せます。

現場のコツ:フィルターの選択肢をSQLで生成する際は、参照先の大きさに注意します。検証環境で、巨大なトランザクションテーブルを直接なめて地域一覧を作る設定にしたところ、選択肢生成クエリでもウェアハウスが余計に動くと分かったため、本番では小さなディメンション(マスタ)テーブルを参照する形に変えて未然に防ぎました。

04更新とスケジュール配信の設計

ダッシュボードはRun(実行)によるオンデマンド更新が基本で、開くと各タイルのクエリが走って最新結果を表示します。「毎朝8時に自動で更新して配信する」といったネイティブなスケジュール配信機能は持たないため、更新は"データ側"を先に最新化する設計に寄せるのが現実解です。具体的には、Dynamic Tablesで集計結果を宣言的に(目標ラグを指定して)最新化するか、TaskやNotebookのスケジュールでサマリテーブルを更新しておき、ダッシュボードは常にその新しいテーブルを指すようにします。しきい値超過の「気づき」はダッシュボードの再描画ではなく、Alerts(メールやWebhookで通知)で押し出す——つまり表示の更新と通知を分けて考えます。

現場のコツ:検証環境で、経営層向けの重いダッシュボードを大きめのウェアハウスに置いて頻繁にRunしたところ、AUTO_SUSPENDを長めにしていたためにクレジットを想定外に消費すると判明しました。本番では可視化用に小型の専用ウェアハウスを用意し、AUTO_SUSPENDを短く設定して、コスト事故を検証段階で潰しています。

05共有と権限:ここが一番事故る

ダッシュボードはユーザーのprimary role(主ロール)だけで実行され、DEFAULT_SECONDARY_ROLESの設定に関わらずsecondary roles(副ロール)は無効になります。これはガバナンス上は分かりやすい仕様ですが、共有時の落とし穴になりがちです。共有では、相手に「結果の閲覧のみ」を許すか「元クエリの実行まで」許すかを選べ、まだSnowsightにサインインしていない相手にはlink sharing(リンク共有)を使います。

現場のコツ:自分のprimary roleでは見えるダッシュボードが、共有相手のprimary roleに必要なテーブルGRANTが無いために空表示やエラーになる——この事象を検証段階で先に踏みました。本番では可視化専用のreporting roleを作り、必要スキーマにSELECTを付与し、閲覧者にそのロールをprimaryとして割り当てるRBAC設計にして未然に防いでいます。社内ネットワークからAWS PrivateLink経由でSnowsightへ入る前提の企業では、この権限検証を閉域側でも行うことが重要です。

06営業向けと経営層向けの作り分け

営業(現場)向けは、翌日の行動を変えるためのKPIを厚く載せます。パイプライン金額、確度別の本数、活動量(架電・訪問・提案数)、滞留日数、担当別の状況——タイルは多め、フィルターも多めにし、日次で更新してドリルしやすくします。一方、経営層向けはサマリKPIを絞ります。売上・粗利の達成率、前年同月比、着地見込み、地域や事業別の要約を、少数のタイルで、月次、色は控えめに、1画面で判断できる密度にまとめます。ポイントは、集計層(Dynamic Tablesやビュー)を1つに固め、KPIの定義を共通化したうえで、見せ方だけを2種類に割ることです。定義が二重化すると「営業と経営で数字が合わない」という不毛な調整が発生します。

共通データ基盤は1つ、見せ方は2つAmazon S3データレイクSnowflake 仮想WH + RBACDynamic Tables で集計を最新化primary role で実行secondary role は無効経営層ダッシュボードサマリKPI: 達成率 / 前年同月比少数タイル・月次・1画面で判断scorecard を大きく営業ダッシュボード現場KPI: パイプライン / 活動量滞留日数 / 担当別・確度別フィルター多め・日次・ドリル
図1:集計層(Dynamic Tables等)を1つに固め、営業向けの詳細KPIと経営層向けのサマリKPIに見せ分ける。AWS(S3)からSnowflakeまでは一本の流れで、最終出口だけを役割別に分ける。

07これからの正解:Streamlit in Snowflake への移行

前提を改めて具体化します。Snowsight Dashboardsは廃止方向で、新規作成は2026年4月20日に無効化され、既存は2026年6月22日から段階的に削除されます。移行先としてSnowflakeは、既存ダッシュボードを開いて「Generate Streamlit app」を選ぶことでStreamlitアプリへ変換する導線を用意しています。Streamlit in Snowflakeは、Workspaces上での提供が2026年6月1日にGAとなりました。Streamlitなら、RBAC・PrivateLink・KMSといったSnowflake/AWS側のガバナンスの内側で、フィルターやインタラクションを自由に作り込めます。さらにCortex(Cortex AnalystやLLM関数)やAmazon Bedrockと組み合わせれば、「数字を出す」だけでなく「数字を自然言語で説明する」ダッシュボードへ拡張できます。要件によっては、Amazon QuickSightなどのBIツールへ集約する選択肢も現実的です。

Snowsight Dashboards から Streamlit in Snowflake へ新規作成を無効化2026-04-202026-06-01Streamlit(Workspaces)GA既存を段階的に削除開始2026-06-22移行策:「Generate Streamlit app」で変換 / BIツールへ集約
図2:新規ダッシュボード作成は2026-04-20に無効化、既存の削除は2026-06-22から。移行先はStreamlit in Snowflakeが中心で、公式の変換ツールも用意されている。
現場のコツ:すでにダッシュボードを多用しているなら、削除ロールアウト前に棚卸しを行います。実際に使われている数枚だけをStreamlitへ変換し、残りは廃止する方が健全です。全部を機械的に移すより、KPIの定義を集計層(Dynamic Tablesやビュー)に一本化してから作り直す方が、結果的に速く、後々の運用も軽くなります。

08まとめ:型はツールを超えて残る

KPI可視化の価値は、綺麗なグラフそのものではなく「翌日の行動が変わること」にあります。読者(営業か経営層か)を先に決め、集計層を1つに固め、見せ方を2つに割る。共有時はprimary roleとRBACを検証で先に確かめ、コストは小型ウェアハウスと短いAUTO_SUSPENDで押さえる。表示の更新はデータ側の最新化と通知の設計に分ける。ツールがSnowsightのダッシュボードからStreamlit in Snowflakeへ移っても、この設計の型は変わりません。むしろ移行は、二重化したKPI定義を整理し、AWS×Snowflakeのガバナンスに乗せ直す好機です。

EMWはAWS上のSnowflakeを前提に、S3データレイクからRBAC・PrivateLink・Dynamic Tables、そしてStreamlit in Snowflakeへの移行まで一気通貫で設計・構築・運用を支援します。KPI可視化の再設計はお気軽にご相談ください。

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