生成AIの相談でいちばん多いのは、実は「ChatGPTに社内データを入れて大丈夫なのか」という質問です。答えは「何を、どこまで出すかによる」なのですが、これでは実務は前に進みません。選択肢を3つに整理し、判断基準を3つに絞って、現場でそのまま使える形にしました。当社はAmazon BedrockでのAI基盤構築と、Mac StudioでのローカルLLM構築の両方を手がけているので、どれかに寄せるポジショントークなしで書きます。
01選択肢は3つ — まず1枚で
| パブリックAI | Amazon Bedrock | ローカルLLM | |
|---|---|---|---|
| 実体 | ChatGPT・Claude・Gemini等のSaaS | AWS上のマネージドAI基盤(マルチモデル) | 自社設備で動かすオープンウェイトモデル(gpt-oss、Qwen、Llama等) |
| データの行き先 | 事業者のクラウド。法人プランなら学習利用なしが標準 | 自社のAWS環境内。入出力は基盤モデルの学習に使われず、モデル提供元にも共有されない | 物理的に社外へ出ない(閉域・オンプレ) |
| 統制・証跡 | SSO・管理コンソール・監査ログ(プランによる) | IAM・CloudTrail・CloudWatchに統合。PrivateLinkで閉域接続可 | 設計次第で完全に自社統制。ただし全部自分で作る |
| コスト構造 | ユーザー数課金(席課金) | トークン従量課金 | 初期投資+電気代・保守(固定費) |
| 向いている用途 | 汎用の文書作成・調査・壁打ち | 業務システムへの組み込み、RAG、エージェント | 規制・守秘要件が厳しい領域、定常的な大量処理 |
「どれが優秀か」という比較にはあまり意味がありません。モデルの性能差は年々縮まっており、2025年にApache 2.0で公開されたgpt-ossのように、ローカルで動くモデルもすでに実用水準です。決め手は性能ではなく、次の3つです。
02基準1:データをどこまで出せるか
最初に整理するのはモデルではなくデータです。社内のデータを3段階に分けます。
- 外部SaaSに出せる — 公開情報、一般的な文書ドラフト。→ パブリックAIの法人プランで十分
- 自社クラウド内なら置ける — 社内文書、顧客データの大半。→ Bedrock。入出力が学習に使われず、PrivateLinkでインターネットに出さずに使える
- 契約・規制上、外に出せない — 製造ノウハウ、特定業種の規制対象データ、取引先との守秘契約に触れるもの。→ ローカルLLM
03基準2:統制と証跡をどこまで求めるか
「誰が・いつ・何をAIに聞いたか」を説明できる必要があるか、という問いです。監査対応がある業務、職務分離が求められる環境では、AIの利用ログも証跡の一部になります。
ここはBedrockの強みがはっきり出るところです。既存のAWS基盤と同じIAMで権限を管理し、CloudTrailで操作証跡を残し、CloudWatchで利用量を監視する——つまりすでに運用している統制の仕組みにAIがそのまま乗ります。パブリックAIの法人プランにも監査ログはありますが、自社基盤の統制と別枠になるため、管理が二重になりがちです。ローカルLLMは統制を完全に自社設計できる反面、ログ基盤も認証もすべて自前で整備することになります。
04基準3:コスト構造 — 席か、従量か、固定か
3択はコストの効き方がまったく違います。
- 席課金(パブリックAI) — 使う人数に比例。少人数で幅広い用途に使うなら最安
- トークン従量(Bedrock) — 処理量に比例。アプリ組み込みで利用量が変動する用途に合う。使わない月は費用も減る
- 固定費(ローカルLLM) — 初期投資後は処理量が増えても費用がほぼ増えない。定常的に大量処理する用途では、どこかで従量課金を逆転する
目安として、「毎日・大量・同じ種類の処理」が見えているならローカルの固定費が効き始めます。逆に、利用が読めない段階でハードウェアを買うのは順序が逆です。まず従量で始めて、利用パターンが固まってからローカル化を検討する方が失敗しません。
05判断フロー
06現実解は「組み合わせ」
ここまで読むと気づかれると思いますが、まともに検討した会社ほど、着地は1択ではなく組み合わせになります。典型的なパターンはこうです。
- 全社の汎用利用 — パブリックAIの法人プラン(文書作成、調査、アイデア出し)
- 業務システムへの組み込み — Bedrock(社内文書RAG、問い合わせ対応、既存AWS基盤との統制統合)
- 機密領域 — ローカルLLM(外に出せないデータの要約・検索・分析)
2026年時点のローカルLLM界隈でも、「日常はローカル、高度なタスクはクラウド」というハイブリッド運用のパターンも増えつつあります。重要なのは、この線引きを誰かが設計として決めておくことです。線引きがないまま各部署が個別にAIを使い始めると、シャドーAI(管理外のAI利用)が増え、いちばん避けたかった「機密データがどこかのSaaSに入っている」状態が起きます。
—まとめ
ローカルLLM・Bedrock・パブリックAIは競合ではなく、データの機密度と統制要件で使い分ける道具です。判断基準は3つ——データをどこまで出せるか、統制と証跡をどこまで求めるか、コストは席・従量・固定のどれが合うか。そして実務の着地はほぼ確実に組み合わせになります。まずデータの分類から始めてください。そこが決まれば、残りの判断は驚くほど速く進みます。
参考情報
EMWはBedrockでのAI基盤構築と、Mac StudioでのローカルLLM構築の両方を提供しています。だからこそ、お客様のデータと要件に合わせた中立な線引き設計ができます。「うちはどの組み合わせか」の整理からお手伝いします。
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