前回のTDE×PCI-DSSの記事はマネージドのRDSを主に扱いました。しかし現実には、要件や制約からCDE(カード会員データ環境)をEC2上に構築するケースがあります。この瞬間、暗号化と鍵管理は「AWSが面倒を見てくれるもの」から「自分で組み立てるもの」に変わります。ここで多くの現場がサードパーティ製品を必要とします。その理由と選定の勘所を書きます。
01まず切り分け — RDSかEC2か
CDEを載せるDBが、マネージドのRDSか、EC2上の自前DBかで、暗号化の責任分界がまるで違います。
- RDS — TDEやストレージ暗号化がサービスの枠組みで提供され、鍵管理もAWSの仕組み(KMS等)に乗る。楽だが制御は限定的
- EC2上の自前DB — 暗号化の方式も鍵管理もすべて自分の責任。自由度は高いが、PCI-DSSに耐える暗号化・鍵管理スタックを自分で組む必要がある
「特殊なDB構成が必要」「SYSDBAが要る」「マネージドの制約を受けたくない」といった理由でEC2を選んだ瞬間、この記事の世界に入ります。
02EBS暗号化(KMS)だけでは足りないことがある
EC2のディスクはEBS暗号化(KMSバックド)で保存時暗号化できます。これは有用で必須級ですが、ボリューム丸ごとの暗号化であり、PCI-DSSが求める「カード会員データそのものの暗号化」と「厳格な鍵管理」を、そのままフル充足するとは限りません。
- EBS暗号化はボリューム層。DBの中の特定データ(PAN)を狙って暗号化・アクセス制御する粒度ではない
- PCI-DSSの鍵管理要件——鍵のローテーション、職務分離(二重管理・分割知識)、鍵管理者の権限分離、監査——を、KMSの標準運用だけでどこまで満たすかは、要件解釈とQSAの判断による
- アプリ層・DB層での暗号化(TDEやカラム暗号化)を、EBS暗号化に「加えて」求められることがある
03Oracle TDEを自前で回す — ウォレットと鍵の運用
EC2上のOracleでカード情報を暗号化するなら、Oracle TDE(表領域/カラム暗号化)を自分で構成・運用することになります。マネージドのRDSと違い、マスター鍵を保持するウォレット(キーストア)の作成・保護・バックアップ・ローテーションを、すべて自分の手順として設計しなければなりません。
そして、そのウォレットをEC2のローカルに平置きするのは、PCI-DSSの鍵管理の観点で弱い。鍵をどこで、どう守るか——ここでハードウェアセキュリティモジュール(HSM)や外部の鍵管理が視野に入ります。
04サードパーティの出番 — CipherTrust等の透過暗号化+鍵管理
EC2上のCDEで、PCI-DSSに耐える暗号化・鍵管理を組むとき、Thales CipherTrust(旧Vormetric)のようなサードパーティ製品が有力な選択肢になります。これらが提供するのは、単なる暗号化ではなく「透過的な暗号化」+「集中管理された鍵管理」+「職務分離と監査」の一式です。
- ファイル/ボリューム/DBレベルの透過暗号化を、アプリを改修せずにかける
- 鍵を一元管理し、ローテーション・アクセス制御・監査ログを製品として提供(KMIP対応など)
- 鍵管理者とシステム管理者の権限を分離し、PCI-DSSが求める職務分離を実現しやすい
- Oracle TDEの鍵管理バックエンドとして外部鍵管理(Oracle Key Vaultや対応する外部KMS/HSM)を使う構成もある
※製品の具体的な機能・対応範囲・PCI-DSSへの適合は、バージョンと構成、そしてQSAの判断により異なります。導入前に要件との突き合わせを必ず行ってください。
05CloudHSMという選択肢と、KMSとの組み合わせ
AWS側の選択肢としては、専有のハードウェアHSMであるCloudHSMがあります。FIPS準拠のHSMで鍵を保持し、KMSのカスタムキーストアのバックエンドにする構成や、アプリ/DBの暗号鍵をCloudHSMで管理する構成が取れます。
判断はおおむね、①マネージドで済むならRDS+KMS、②EC2上のCDEで強い鍵管理と職務分離が要るならCipherTrust等のサードパーティ、またはCloudHSMベース、という整理になります。鍵管理の強度・職務分離・監査・QSA受容性が、どこに寄せるかを決める軸です。
06選定の軸
- 暗号化の粒度 — ボリューム/ファイル/DBカラム、どの層が要件か
- 鍵管理の強度 — ローテーション自動化、職務分離、分割知識・二重管理
- HSMバッキング — FIPS準拠のHSMで鍵を守る必要があるか
- 監査と可視化 — 鍵の利用・アクセスの証跡(PCIスコープと地続き)
- 性能オーバーヘッド — 透過暗号化のI/O影響を本番同等で検証
- QSAの受容性 — その構成で監査を通せるか。これが最終判断
—まとめ
CDEをEC2に置いた瞬間、暗号化と鍵管理は自分の責任になります。EBS暗号化は土台の1枚にすぎず、PCI-DSSが求める鍵管理の強度・職務分離・監査までを満たすには、Oracle TDEの自前運用に加え、CipherTrust等のサードパーティや、CloudHSMといった鍵管理の柱が要ることが多い。マネージドのRDSなら見えなかったこの一式を、EC2では自分で設計・選定・検証しなければなりません。「暗号化しているから大丈夫」で済まないのがCDE-on-EC2の世界です。要件とQSAを起点に、鍵管理から逆算して設計してください。
EC2上のCDEの暗号化・鍵管理(TDE運用、CipherTrust等の選定、CloudHSM、QSA適合)は、EMWのPCI-DSS対象環境の経験が直接活きる領域です。「EBS暗号化だけで足りるのか」の判定からご相談ください。
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