AWSのアカウントが増えたら、AWS Organizationsで束ねます。管理アカウント/Root/OUの構造、SCPとRCPのガードレール、委任管理者による分権、そしてIaCでの組織管理まで——Organizationsの仕組みそのものを、マルチアカウント統制の実務目線で整理します。
01アカウントが増えたら、Organizationsで束ねる
AWSを本気で使い始めると、アカウントは1つでは足りなくなります。本番と検証を分け、セキュリティを分け、部署やプロジェクトで分け——気づけば十数〜数十アカウント。これをバラバラに管理すると破綻します。
その"束ね役"が AWS Organizations です。複数アカウントをOU(組織単位)でグルーピングし、Root・OUにガードレール(SCP/RCP)を敷き、サービスの組織管理を委任管理者に寄せる。全体像はこうなります。
この記事では、Organizations の仕組みそのもの——構造、OU設計、SCP/RCP、委任管理者、そしてIaC(コード)での管理——を実務目線で整理します。「なぜ複数アカウントに分けるのか」という戦略面は姉妹編のAWSアカウントの考え方(マルチアカウント戦略)をどうぞ。
02構造 — 管理アカウント/Root/OU/メンバー
Organizations は、Root を頂点に OU をネストしたツリー構造です。構成要素はシンプル。
- 管理アカウント(Management、旧マスター):組織を作成した唯一の特別なアカウント。アカウント作成/招待、委任管理者の指定、ポリシー付与、支払いを担う。変更不可。
- Root:組織に1つだけの最上位コンテナ(自動作成・削除不可)。
- OU(組織単位):アカウントの論理グループ。ネスト可能で、Rootから最下層まで最大5階層。親OUのポリシーは子に継承される。
- メンバーアカウント:管理アカウント以外のアカウント。
03OU設計 — 「組織図」ではなく「共通コントロール単位」で切る
OU設計の原則は、組織図(指揮系統)で切らないこと。機能・共通コントロール単位でグルーピングします。AWS推奨は、まず Security と Infrastructure から着手する形です。
- Security OU:ログアーカイブ、セキュリティツール、監査(読み取り専用)、break-glass 用アカウント
- Infrastructure OU:ネットワーク等の共有インフラ/ITサービス
- Workloads OU:業務ワークロード。配下を SDLC(非本番)/ Prod に分け、本番を隔離
- Sandbox OU:開発者の実験用(社内ネットから切り離せること)
- ほかに Policy Staging(ポリシー検証)/Suspended(閉鎖待ち・全拒否SCP)/Exceptions(特殊要件)など
04SCP と RCP — Root・OU に敷くガードレール
OU/Root に付ける"ガードレール"が SCP(Service Control Policy) と RCP(Resource Control Policy) です。どちらも権限を"与えず"、上限を絞るだけ——実効権限は各IAMポリシーとの論理積になります。
| 観点 | SCP | RCP |
|---|---|---|
| 中心 | プリンシパル(IAMユーザー/ロール) | リソース |
| 絞る対象 | プリンシパルの上限権限 | リソースの上限権限 |
| 外部プリンシパル | 効かない(組織内のみ) | 効く(組織外からの自リソースアクセスも制限=データ境界) |
| 管理アカウント | 効かない | 効かない |
| 対応サービス | 全サービス | 限定(S3/STS/KMS/SQS/Secrets Manager 等、拡大中) |
| 提供 | 従来から | 2024年11月 新設 |
05委任管理者 — 管理アカウントで運用しない
管理アカウントは「組織の金庫番」。ここで日々のサービス運用をやると、権限集中に加えてSCPが効かない特権まで抱え、攻撃対象が肥大化します。だから運用は 委任管理者(delegated administrator) で他アカウントへ寄せます。
- 委任管理者=特定サービスの組織全体管理を専用メンバーアカウントに任せる仕組み。前提として trusted access(信頼されたアクセス)を有効化(多くはサービス側の操作で同時に有効化される)。
- 委任できる代表サービス:GuardDuty/Security Hub/Detective/Macie/Inspector/IAM Access Analyzer/Config/CloudTrail(組織証跡)/Firewall Manager/Security Lake/IAM Identity Center/CloudFormation StackSets/AWS Backup など。
- 定番パターン:セキュリティ系を監査専用の Security(Audit)アカウントに委任集約し、管理アカウントにセキュリティ運用権限を持たせない。
- 委任できないもの:Control Tower/RAM/Directory Service/Billing 等は管理アカウント運用のまま。
06IaCでのOrganizations管理 — コードで再現可能にする
手作業でOU・SCP・アカウントを作ると、再現も追跡もできません。IaCでコード化すれば、構造をレビュー・履歴管理・再現できます。ただしOrganizationsのIaCには「効きすぎるがゆえの注意」があります。
Terraform(主要リソース):
aws_organizations_organization(組織本体。feature_set=ALL、trusted accessを有効化する service principal、有効化ポリシー種別)/aws_organizations_organizational_unit/aws_organizations_account/aws_organizations_policy(type=SCP/RCP/TAG/BACKUP 等)/aws_organizations_policy_attachment/aws_organizations_delegated_administrator- 既存の組織は必ず import して起点にする。
aws_organizations_organizationをdestroyすると組織全体の削除につながり得るため極めて危険。 - アカウントは非可逆:削除しても既定は「離脱」のみ(閉鎖は
close_on_deletion=true)。誤apply/destroy防止にlifecycle{prevent_destroy=true}、読めない引数はignore_changes=[role_name]。
CloudFormation StackSets(組織横断の展開):
- service-managed 権限モデルなら、Organizations統合で必要なIAMロールをStackSetsが自動作成(self-managedと違い自動展開が使える)。
- automatic deployment:展開先にOUを指定すると、そのOUに将来追加されるアカウントへ自動でスタックが展開される(ベースライン配布の定番)。
- 委任管理者から回すなら
call_as=DELEGATED_ADMIN(管理アカウントでの実行を減らす)。
AWS Control Tower / AFT:
- Control Tower は Organizations・StackSets・SCP・Config を内部でオーケストレートするマネージドサービス。ランディングゾーンで Security OU(Log Archive/Audit)・IAM Identity Center・予防的(SCP)/検出的(Config)コントロールを一括セットアップ。
- AFT(Account Factory for Terraform):Control Towerのアカウント払い出しを Terraform+GitOps で回す仕組み(専用のAFT管理アカウントが必要・既存ランディングゾーン前提)。
- 判断軸:マネージドで即ガードレールが欲しい→Control Tower、TFで払い出しを標準化→AFT、完全に自前で組む→素のOrganizations+StackSetsをTerraform/CFnで。CT管理リソースをTerraformで書き換えない(ドリフトの元)。
07管理アカウントの衛生 — ここだけは過剰に守る
管理アカウントはSCPが効かない=特権が素通しになります。だから最も厳重に扱います。
- ワークロード/データを置かない(SCPが効かないため)。リソースは他アカウントへ。
- root はハードウェアMFA・日常利用しない(root MFAは2024〜2025で全アカウント種別に必須化)。
- Centralized Root Access でメンバーの root 資格情報を中央削除、必要時のみ
sts:AssumeRoot(最大15分・タスク限定)。 - 離脱防止SCP:Root に
organizations:LeaveOrganizationとaccount:CloseAccountを Deny(2026年7月以降にコンソールで作成した組織には自動付与、旧組織・CLI作成分は手動)。 - email/MFA/電話番号の保有者を定期棚卸し、復旧手順を特定個人に依存させない。
08まとめ — 束ねて、ガードレールを敷き、委任する
Organizations の骨格は4つ——①複数アカウントをOUで束ね、②Root・OUにSCP/RCPでガードレールを敷き、③運用は委任管理者へ寄せ、④管理アカウントは金庫番に徹する。そしてIaCでコード管理すれば、この構造を再現可能・追跡可能にできます。
EMWは、マルチアカウントの設計・統制基盤づくりを実務で扱ってきました。「アカウントが増えて管理が追いつかない」段階から、OU設計・ガードレール・委任の型を一緒に整えます。
あわせて、なぜ複数アカウントに分けるかはマルチアカウント戦略、IDでの束ね方はID統制の記事、サービス名の対応はAWS・Azure・GCP・オンプレ 対応表もどうぞ。
09よくある質問(FAQ)
SCPとRCPの違いは何ですか?
SCPはプリンシパル(IAMユーザー/ロール)の上限権限を、RCPはリソースの上限権限を絞るガードレールです。RCPは組織外からの自リソースアクセスも制限でき(データ境界)、2024年11月に新設されました。どちらも権限は与えず、管理アカウントには効きません。
委任管理者(delegated administrator)とは何ですか?
特定サービスの組織全体管理を、管理アカウントではなく専用のメンバーアカウント(多くはSecurity/Auditアカウント)に任せる仕組みです。GuardDutyやSecurity Hub等のセキュリティ運用を集約し、管理アカウントへの権限集中を避けます。
なぜ管理アカウントにワークロードを置かないのですか?
管理アカウントにはSCPが効かず特権操作が素通しになるため、侵害時の影響が組織全体に及ぶからです。リソースは他アカウントへ寄せ、管理アカウントはアカウント作成・委任・ポリシー付与・支払いに徹します。
OrganizationsはIaC(コード)で管理できますか?
できます。Terraformの aws_organizations_* リソースや CloudFormation StackSets(service-managed/自動展開)でOU・アカウント・ポリシーをコード管理します。ランディングゾーンごと自動化するなら AWS Control Tower(Account Factory/AFT)も選択肢です。
マルチアカウントのOU設計・SCP/RCPのガードレール・委任管理者の型づくりでお困りなら、現状の棚卸しから一緒に整えます。「増えて管理が追いつかない」を、統制の効く構造へ。
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